イナオ君の車椅子

・ 2003.3.20 福岡の動物病院で働いている女性の獣医師さんから、車椅子の相談のメールをいただきました。

椎間板ヘルニアで下半身麻痺になったブリーダーさんのダックスを引き取りました。ブリーダーさんの所へ帰れば、夏になってハエでもとまればどうなるのか・・・

こんなふうに情を移していては切がないと思いながらも引き取ってしまいました。他にもひどい口蓋裂のチワワ、脱腸のヨーキー(これは手術してなおしましたが)を飼っています。

・ その後、数回メール交換をしているうちに車椅子が完成したと知らせていただきましたので、情報の提供をお願いしたところ、次の手紙と写真をいただきましたので紹介いたします。

こんにちは。 遅くなってしまいましたが、イナオ君の写真ができました。車椅子製作中は色々心配していただきありがとうございました。

なかなか部品が揃わず、私なりに工夫して何とか出来上がりました。いつまで使えるかが心配ですが、今のところよく走っています。

車椅子をつけるととても早く動き回り、とにかくじっとすることができないので良い写真が撮れませんでした。

イナオ君のことですが、もともとはブリーダーさんの種♂として活躍していたワンちゃんです。

突然の下半身麻痺で私の働いている病院へやって来ました。今までの症例を見た限り、尾が少しでも動くようならほとんど内科的な治療で治りますが、彼はまったく動きませんでした。

ブリーダーさんの希望で1ケ月半もの間入院治療をするも、まったく反応なし。その間、もともと傷のあった陰茎が壊死して切断手術をしたり、麻酔をかけたとたんの心肺停止。エマージェンシーでやっとの復活と色々なことがありました。

ブリーダーさんも世話が出来ないので連れて帰れないし、手のかかる犬を可愛がってくれる新しい飼い主さんも見つからない。

せっかく取り留めた命をこのまま消すことだけはしたくないと思い、私が引き取ることにしました。と言っても簡単には決心がつきませんでした。

尿も便も垂れ流す。これから色々なことがあるだろう。何もなければあと10年近くは生きる。こんな仕事をしていると、色々なワンちゃんに出会います。それぞれに様々な事情があります。ひどいようだけれどかわいいとか、かわいそうだけではやっていけません。

本当に自分が最後まで責任を持てるのかとても悩みました。

でも、これからは私の子供として色々な楽しいことが世の中には沢山あることを教えてあげたいのです。

さて、イナオ君の近況ですが、車椅子に乗るようになってからうれしい変化が表れました。今までだらっとしてまったく力の入ってなかった足が、握ると蹴ったり引っ込めたりするようになりました。

初めは気のせいか反射だろうと思っていたのですが、今では排尿のための腹部圧迫時には尾が2〜3回揺れ、座っているときも後ろ足はだらりとまではしなくなりました。歩く様に前には出ませんが、お尻が浮き上がっていることもあります。

毎日1時間の車椅子と足のマッサージに加え、最近は鍼治療も初めました。何とかもう少し動けるようになればよいのですが‥・新しい動きがあったら又報告します。

彼は今まで名前もなかったし、あまり人に声をかけられていなかったせいかまったく話が通じないというか言葉を知らないようです。ただ鳴くばかりで呼んでもほめてもあまり反応がありません。

足もようやく出来たので、これからじっくりイナオ君と仲良くなりたいと思っています。

・ イナオ君は下半身麻痺にはなりましたが、優しい飼い主に巡り会えて本当に良かったと思います。

・ 商売とはいえ、犬に名前もつけずに飼い、種付けをさせて儲けるようなブリーダーがいることは、本当に残念なことです。

・ Mさん情報の提供どうもありがとうございました。これからもよろしくお願いします。